あたしは一旦立ち上がると独角ジに向かってペコリと頭を下げた。
「おかげで李厘ちゃんに見つからずにすみました。本当にありがとうございました!」
「あぁいいっていいって・・・気にすんな、李厘は遊び始めるといつも全力投球だからなぁ〜。アンタも疲れたろ、ここで少し休んできな。」
「はい。」
独角ジの言葉に甘え、見晴らしのよいベランダに座りのんびり外を眺めようとしたのだけれど・・・。
頭上の窓枠に肘をついて独角ジがじーっとあたしを見ているせいで落ち着かない。
顔に何かついているのか?それとも・・・やっぱり怪しまれてるのか!?
思考が勝手に暴走してそんな事を考えていたら、頭上から独角ジの慌てるような声が聞こえた。
「・・・やべっ!ちょっと端に寄ってくれるか?」
「ほえっ!?」
あたしが移動したと同時に独角ジが軽々と窓枠を飛び越えあたしの隣りにやってきた。
「頭下げろ!」
「???」
頭に幾つハテナがついたか分からない。
おろおろしてると独角ジがあたしの頭を掴んで、そのまま自分の胸に抱え込んだ。
「ワリィけど暫く静かにしててくれ・・・」
無言でコクコクと頷き、徐々に近づいてくる足音に息を呑んだ。
「あれぇ?ついさっきまでこの辺で話し声がしていたんだけどなぁ・・・」
「一体独角ジに何の用ですか?」
この声は・・・ニィ博士ともう一人、女の博士・・・の声かな?
「んーちょっとお使い頼もうと思ったんだけど・・・ま、いっか。」
「ニィ博士・・・アナタ少し独角ジを私用で使いすぎですよ?」
話している内容は独角ジに耳を塞がれていてよく聞こえないけど、どうやら二人は独角ジに用事があるみたい。
暫くあたし達の側で話をしていたけど、やがて足音が徐々に遠ざかって行った。
「・・・ぷはぁっ!!」
「やー、助かった助かった。悪かったな急に・・・」
「いいえ、さっきはあたしが匿ってもらったんだし・・・これでおあいこですねv」
そう言ってにっこり笑ったら何故か独角ジは急に吹き出し、口元を押さえたまま笑い始めた。
「ど、独角ジさん!?」
苦しそうなほど笑い声を抑えて笑う独角ジ。
・・・こんな光景何処かで見た事がある。
あぁそうだ、悟浄もよく突然笑い始めるんだ。
何を見て笑い出したかあたしが分からなくて困った顔をしてると更に笑い声が大きくなって、それで笑いが治まると決まって・・・
「・・・悪かったな、急に笑っちまって・・・」
そう、そう言ってまるで子供を宥めるみたいに頭をポンポンって撫でて・・・って今ここに悟浄はいないじゃん!と言う事はこの台詞と手の主は・・・!?
「どうした?そんなビックリした顔して?」
あたしの頭に置いていた手を離して、物凄く優しい目で独角ジがこっちを見ていた。
気のせいかその目はあたしの後ろにいる誰かを見つめているような気がしてならない。
「あ、いえ・・・ちょっと考え事してたから・・・」
「驚かしちまったか?」
「いいえ。ある人の事考えてて・・・ちょっと独角ジさんに似てるんですよ、その・・・言い方とか、行動が・・・」
ちょっとわざとらし過ぎたかな?
しかし独角ジは大して慌てるでもなく真剣にあたしの話を聞いていてくれた。
そんな真剣な空気を読む事もできないあたしのお腹が突然空腹を訴えるかのように鳴り出した。
慌ててお腹を押さえるがそんな事で腹の虫は鳴き止まない。
「うあっっ・・・」
恥ずかしい・・・穴があったら入りたいよぉ。
「こんなもんしか無いけど、食うか?」
そう言って独角ジがクッキーのようなかりんとうのような物をあたしの手に乗せてくれた。
「これは?」
「ん?麻花って菓子だけど、まぁ李厘が腹減らしてる時にメシまでのつなぎに食わしてるもんだ。」
「へぇ〜・・・」
三つ編みのように編まれていて、大体指の長さくらいの大きさ。
「えっと・・・それじゃぁ遠慮なくイタダキマス。」
どんな味か分からないけど口を大きく開けて麻花といわれるお菓子に噛み付いた。
がじっ!
・・・思ったより硬かった。
その様子を見て独角ジがまた笑い始めた。
今度は遠慮なく声を大にして笑っている。
この兄弟はどうしてこんなに人の行動を見て笑うんだ?
突然笑い出すのは悟浄で慣れているので、特に気にせず目の前のお菓子を一生懸命食べる事に専念した。
かりんとうのようなお菓子はわけも分からず吠登城をさ迷って疲れた体を癒してくれる優しい味をしていた。
「もう一本食うか?」
「はい!いただきます!!」
何だか気に入ってしまい遠慮せず独角ジの手からもう一本麻花を貰った。
「独角ジさんっていいお兄さんって感じですね。」
「・・・そうか?」
「はい!すごく面倒見がよさそうです。」
いや、実際いいんだけどね。
悟浄のお兄さんと言う事を知りながらこんな事言うあたしって・・・ちょっと意地悪?
「・・・実際はそうでもねぇよ。」
「え?」
少し俯いてしまった独角ジが気になって顔を覗き込もうとしたら、急に立ち上がって窓枠を飛び越えると廊下に戻って行ってしまった。
「これ食ってるとノド渇くだろ。ちょっと茶でも取ってくっからここで大人しく待ってな。」
「えっ!!」
「すぐ戻るよ。」
よほど不安そうな顔をしていたのか、独角ジは苦笑したような表情を見せるとあたしの頭を片手でぐしゃぐしゃと撫で付けて行った。
さて貴女はどうする?
★ 独角ジの後を追いかける
☆ 言われたとおりその場で待つ